「申し訳ありません。ただいまレジが壊れてましてレシートなしになります」
店員さんはそう言って本をひっくり返し、値段を確認しながら電卓を叩いた。よん、ご、なな、かける……電卓勘定なんて高校の文化祭以来だ。
慌ただしい世の流れを薄めるかのように、パタパタとキーを叩く音が耳に流れ込む。
ほんの数分の出来事だけど安心した。店員さんと向き合って会話する時間が少し多いだけなのに。
思いもよらぬ穏やかな間がこんなにも、こんなにも癒しになるって忘れてた
ごたごたは落ち着いたけど気持ちがまだ全回復してないので帰省した。
特に用もないけど、ふと電車に乗りたいと思った。
日曜の陽射しに当たりながら電車に揺られ流れる景色を無心に眺めたかったのだ。
『メッセージは見ないから電話で報せろ』と文句を言いつつ迎えに来てくれた父。
母不在のため2人きり。
私が帰ったからと言って特別なことはせず、自由に珈琲を飲み近所のファミレスで昼ごはんを食べた。近況報告も事務的だし反応も超クール。
それ以上も以下も何も聞かない
会話の外で発した一言に全てが詰まっているから。